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蒼荊のアリス(第1話:アオイバラ)

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この小説は、以前noteで書いたのを一部書き直したものです。

今後こちらで書いていく予定ですのでよろしくお願いいたします。それではどうぞ↓

 

第1話:アオイバラ

「ここで捕まってたまるか!!」

俺は走っていた、警察を振り切って盗んだ物を抱えたまま走っていた。

警察の声が遠くなり逃げ切れたかと思った瞬間、目の前に小さな影が見えた。それは本当に小さかった。いや、小さすぎる。

そう思った次の瞬間、俺は膝を地面につけていた。

一瞬の出来事に何が起きたのかわからず混乱していたが、目の前を見た時その景色を疑った。

そこには可愛らしい服を着た少女が立っていたのだ。この少女が何かしたというのか、いやそんなはずは...

次に目を開いた時、目の前には白い壁が広がっていた。

そして俺は悟った、捕まったのだと...

 

..................

 

「昨夜、世間を賑わせていた連続強盗犯が警察により逮捕されました。犯人は逃走中に倒れているところを発見され、追跡していた警察官に確保されたとの事です。犯人は幼い少女を見たと発言しており...」

 

画面に映るキャスターは慌ただしく事件の内容を事細かく話していた。

しかし、慌ただしく言わなくても既に知っている。それよりいい加減にしないとアリスが見たい人を見る前に寝てしまう。

 

...あ、こっくりいった。

 

ニュースは昨日起きた事件やら最近のトレンドやらを発信していた。

テレビの前には自分の姉が作った服を着た少女が好きな女性アイドル見たさに眠るのをこらえながら画面前に張り付いていた。

土曜のニュース後にそのアイドルのレギュラー番組があるのだが、今日は緊急ニュースが入り放映時間が遅れているようだ。

 

「それではまた来週お会いいたしましょう、さようなら。」

 

やっとニュースが終わり、次の番組が始まった。

 

Goth Loli POPティータイム!! 始まるよ!!」

 

ゴシックファッションとロリータファッションに身を包んだ女の子たちの6人組アイドル、それが『Goth Loli POP』だ。ゴシックチームロリータチームに分かれているらしく、アリスはロリータチームの「姫衣 杏奈(ヒメイ アンナ)」のファンである。

番組が始まってからというもの、さっきまで眠たそうにしていたのが嘘のように目をキラキラさせながら画面にクギ付けになっていた。こうなると声をかけても反応しない。

自分はいつものようにアリスの前に牛乳とお菓子を運んだ。今日のお菓子は姉が買ってきたドーナッツである。

 

『アンナ様のニュースぶった切り!!』

 

アリスが一番好きなコーナーがやってきた、アリスがファンである姫衣杏奈はキツめの性格が売りらしく、時々ネットが炎上するらしい。特に最近のニュースに対して意見を包み隠さす発言するこのコーナーが一番炎上しやすいらしい。(全部アリスから聞いた)

 

「最近連続強盗犯が捕まったらしんだけど、気絶して倒れていたところを捕まったって聞いて本当にバカだなって思ったの。しかも倒れた理由が幼い少女を見たからってどんなファンタジー?って...

「今日も杏奈様すごい...

 

アリスが言うように本当にあれよあれよと毒の効いた言葉が羅列されていく...しかし連続強盗犯についてはご愁傷様である、本当の事を言ったのにも関わらずファンタジー扱いされているのだから...

 

「それじゃあみんなまた来週!バイバーイ!!」

 

番組も終わり、自分はアリスのコップとお皿を回収しに向かった。毎回この時間になるとアリスは一瞬にして夢の中に旅立つ、その時の楽しそうな寝顔を見るのがすこし楽しみだったりする。特に姉が...

 

「ヨウちゃ~ん、アリスがおかしいの~。」

 

頼りなさそうな声で自分の事をヨウちゃんと呼んでいるのは自分のである。しかしアリスがおかしいとはどういうことか...しかし考える事なくアリスの姿を見たらすぐに原因がわかった。

 

「アリスが寝てない...

 

そう、いつも寝てる時間にアリスが寝ていないのだ。他からすればただ起きているだけと思うだろう。しかしアリスの場合、寝ていないというよりはいつもの生活リズムが崩れている事が問題なのだ。

アリスの生活リズムが崩れる、すなわち誰かの死が近づいている事を意味する。アリスにはそれが誰かまでわかる。

 

...杏奈様があぶない。」

 

アリスの顔が一気に真っ青になった、これはひどく嫌なものが見えている証拠だ。しかし録画とはいえ、さっきまでテレビで見ていた人間が死に近づいているというのはどうも不思議な気分である。

 

「ヨウにぃ...マサ君に連絡して、マサ君も危ない...

 

アリスの言う『マサ君』とは自分の昔通っていた学校の後輩で、今は刑事をしている。もともとマサの家族は警察の家系で、祖父の修一郎さんは署長、父の圭吾さんは警部、母の聡美さんも交通安全課の婦警で、マサも2年前に刑事になったばかりである。

そのマサにまで危険が及んでいるらしい、これは本格的に急がなければいけない。自分はアリスに言われた通りマサに連絡しようとした瞬間、自分の携帯が鳴り響いた。相手はまさかのマサである。

 

「あっ先輩、もしかしたらですけど、アイドルの『姫衣 杏奈』って知ってます?」

「知ってます?どころかお前にその事で連絡しようしたところだったんだが。」

...マジっすか...アリスちゃん、もしかして視えてます...?」

「お前の嫌な予想通りだ、お前も危ないらしい。」

「マジっすか...

 

いつもテンションが高い奴が妙にテンションが低い。

 

「マサ、お前もしかして今『姫衣 杏奈』と一緒にいるんじゃないか?」

...はい、色々あって今彼女のストーカーから逃げてるところです。」

 

ストーカーときたか...アイドルのトラブルの中でイメージしやすい内の1つではあるが、そのストーカーが今殺人犯になりかけている訳だ、それにアリスが好きなアイドルを死なす訳にはいかない。なんとかしなければ...

 

「今どこだ、助けに行く。」

「先輩ありがとうございます!場所は...

 

.......................

 

アリスは人の死を予知できるだけではなく、もう一つ能力がある。

それは『相手の意識を奪う』別名『蒼荊』だ。

姫衣 杏奈のコーナーで取り上げていた連続強盗犯の気絶はアリスの力によるもので、もともとあの連続強盗犯はアリスが視た死ぬ手前の人間だった。警察から逃げているところでトラックと衝突し即死する姿がアリスには視えていたらしく、阻止する為に強盗犯が通る道を先回りして気絶させたのだ。

当然ながら強盗犯どころか世間はその事を知らない、知っているのはアリス、自分、マサ、マサの父親の圭吾さん、あとはマサの祖父の修一郎さんだけ。

人間の想像を超える特殊な力だ、公表すれば混乱を招きかねない為にできる限り秘密にしている。

 

....................

 

そして今、アリスと共にマサの言っていた場所にたどり着いた。

到着まで30分ほどかかった為に、さすがにその場所にはマサ達はいなかったが問題ない。なぜなら...

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁああ!!」

 

すぐに場所を教えてくれるからだ。

 

「アリス、行くぞ。」

「うん」

 

アリスと共に叫び声の聞こえた方に向かった。

 

.....................

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁああ!!」

 

なぜ日本刀らしき剣を持った男には襲われているのか、銃刀法はどうした。

怒りの形相で日本刀を振り回すその男は、後ろにいる杏奈に特別な感情を抱いている事はわかる。僕の事を杏奈の彼氏だと思っているらしい、だからって剣を振り回すっておかしいだろ。

工事現場の近くにいた時に鉄パイプを拝借しておいてよかった。これがなければそのまま叩き斬られていた。

 

「なぜ、なぜだ、なんで貴様が杏奈ちゃんと!!」

 

男の力が強くなっている。どうにかしないと押し切られる。

 

「杏奈!早く逃げろ!!」

「けど、マサが...

「気安く杏奈ちゃんを呼び捨てするなぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」

 

また男の力が強くなった、このままだと杏奈と共倒れだ。それは避けなければならない。

 

「早く!!」

「マサ...

 

杏奈の性格はわかっているが、警察官として国民の安全を守る義務がある。自分が斬られる未来だとしても必ず守る。

 

「杏奈ちゃん!!」

 

杏奈が後ろの方向に走っていく。それを見た男に隙ができた。そう、僕はこれを狙っていた。

 

「おらぁ!!」

 

気合いで男をぶっ飛ばし、間を広げた。一旦は危機を乗り越えたが、正直この後は何も考えてない。

 

「なんでだ、なんでお前なんだ...なんで俺じゃなくてお前なんだ!!!!」

 

完全に男の顔が人間から鬼と化した。鬼は殺意丸出しで剣を振りかざす。

鉄と鉄が当たる音がなんども鳴り響く、僕は防戦一方で自分の身を守る事しかできなかった。杏奈を逃がしてよかった、守りながら戦っていたらすぐにやられていただろう。

 

「なんで!なんで!!なんでお前が!!!!!!!」

 

鬼の攻撃が激化していく、僕の腕もそろそろ限界が...

 

「あぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!」

 

悲鳴にも聞こえる声を出しながら放たれた鬼の一撃が僕の持っていた鉄パイプを吹っ飛ばした。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!!!!!!」

 

殺意がMAXにこもった鬼の声が響く、鬼は僕に向けて刀を振り下ろす...

僕はここで死ぬのか..........................................と思った瞬間。

 

「なに殺されそうになってんだよ、マサ。」

 

鬼の動きが急に止まり、その場に倒れた。

 

「はぁ...先輩遅いっすよ。」

「できる限り早く来たんだがな。」

 

その人達を見た瞬間に僕は悟った。僕は助かったのだと...

 

.....................

 

「ニュースです、昨日殺人未遂により東京都に住む荒川 信二容疑者が逮捕されました。荒川容疑者はアイドルの姫衣 杏奈さんをストーキングしていたとして現在調査中とのことです...」

 

昨日の出来事がすぐにニュースになっている。マスメディアの情報の速さは少しびっくりするが、それが仕事なのだからしかたがないのかもしれない。

昨日はアリスの力によって死者を出す事なく解決する事ができたのだが、そのお礼に家に姫衣が来ていた。

 

「可愛くて連れて行きたいぐらい可愛い...

 

アリスに心奪われ、今にも持ち帰りそうになっている姫衣。いかにもシュールな光景だ。

 

「ははっ、いつも通りだな杏奈は。仕事でもそういうところ出せばいいのに。」

 

昨日の功労者であるマサもいる。

 

「マサなんかに言われたくない。」

「どういうことだよ~杏奈。」

 

マサと姫衣の軽い痴話喧嘩を綺麗な目でアリスが見ていた。姫衣にくっつきながら。

しかし、本当に付き合ってるんじゃないだろうかというぐらい仲がいい。後で聞いた話だが、二人は実のいとこで昔から遊んでいた仲だったそうだ。

あの日はマサの非番で姫衣の買い物に同行していて、その時にストーカーの荒川に襲われたらしい。荒川はマサと姫衣の仲がいい姿を見て怒りが爆発したのだろう。しかし、なぜ日本刀の真剣を持っていたのか...銃刀法どうした。

しかし本当に嫉妬するぐらい仲がいい。恋人というかもう家族だ家族。姫衣にくっついてるアリスが二人の子供に見えてくるほどだ。

 

「杏奈は可愛い物が本当にすきだからな~。」

「そんなの女の子なんだから全然いいじゃない。」

2人夫婦みたい...

「えっ」

 

アリスの会心の一撃2人ともノックダウン。

 

「あははは...

...

 

おっと姫衣の急所にクリーンヒットしたらしい。顔がトマトのごとく赤い。

 

「あっ、そうだ。今日はこれを渡しに来たんだった!」

 

いかにもといった感じでその場を離れる姫衣。おっと表情から小悪魔部分が出てるぞアリス。

姫衣は持ってきた紙袋から包みを取り出した。

 

「昨日はマサを助けていただきありがとうございました、大した物じゃないけどよければ食べてください。」

「今開けてもいいかい?」

「大丈夫ですよ、どうぞ。」

 

包みを開けるとクッキーの詰め合わせだった。しかも最近TVで取り上げられていた新しい店のやつだ。

 

「アリス、クッキーもらったけど食べるかい?」

...うん、食べる。」

「そうか、...姫衣さんも一緒に食べますか?」

「え、私からお渡しした物なのにいいんですか?」

「ええ、逆にアリスがあなたの熱烈なファンなので、もう少し話をしてもらってもいいですかね?」

「私でよければ喜んで!!」

 

姫衣の目が輝いているように見える。

 

「アリスちゃん、何話そうか?」

 

アリスがファンだという事がすごく嬉しいのだろう。

 

「マサはどうする?」

「それじゃあ僕もいただきます。」

「わかった、用意してくるわ。」

 

自分は全員分の飲み物を用意するためにキッチンに向かった............

 

1話 終